河原文翠の日々是好日

降っても 照っても 日日是好日。泣いても笑っても 今日が一番いい日。

捲土重来


                                     四 字 熟 語


                                            捲 土 重 来 


重来をジュウライと読む人も居るが、これはチョウライの方が本格派だ。出典は漢詩(杜牧の題鳥江亭詩)で、「江東子弟多才俊、捲土重来可知」という有名な句による。
捲土は土煙を巻きあげる意味だが、転じて勢いが盛んであるさま。そこで 捲土重来であるが、敗れた者が再び勢いを得て巻き返しにかかること、一度は失敗したものの再びチャンスを得て盛り返し、挽回してくることのたとえだ。

 

会話でも文章でもよく使われる四字熟語ゆえ、特に年配者にはお馴染みだろうが、いったんは引き下がりながらも再挑戦して汚名返上、失地回復、逆転勝利、この目標のために頑張る時など、上司は「諸君、捲土重来を期して」と檄をとばす。
まだ負けてもいないのに、捲土重来はあり得ない。

 

ついでに、スポーツ中継で汚名挽回というアナも居る。これはおかしい。挽回は名誉挽回のほうがピッタリで、汚名は返上するもの。汚名はそそぐとも言うが、汚名だからこそ捲土重来を期さなくてはいけないわけだ。

 

 

才色兼備


                                         四 字 熟 語


                                            才 色 兼 備 


才色は才知と容色、つまり才能と容貌のことだから、才色兼備は最高に近い褒め言葉だが、残念ながら男には使わない。女性が優れた才能を持ち、なおかつ美人である、二つとも兼ね備えた人は珍しいという感じで、主に結婚披露宴のスピーチなどで濫用される気味があるので、当人は褒めたつもりでも、聴衆はお世辞、外交辞令とわかっているから誰も本気に受け取らない、そういう使われ方が当たり前の言葉に何時の間にかなってしまった。

テレビの女性アナウンサーのキャッチフレーズに、美人アナというのがある。こうなると、まさに才色兼備だが、ではほかの女性アナは美人ではないのか、という疑問も残る。ましてや才色兼備というフレコミの美人アナが、意外や教養貧しく漢字に弱いとあっちゃ、看板に偽りありではないか。

次は何れも実例だか、泥酔をドロヨイと読んだ、冷奴をレイドと読んだ、茶店をサテンと読んだ。じゃ “能書家”をあなたはどう読むか? 美人アナは、ノーガキヤと言ってしまった。
正解は、ノウショカであることはご承知の通りである。

 

 

多情多感


                               四 字 熟 語


                                     多 情 多 感 


青春時代は誰も多情多感である。そうでない人が居たら不幸だというしかない。
感情が豊かで物事に感じやすい、そういう一時期を過ぎてみんな大人になっていく。
大人になっても多情多感であり続ける人も少なくないが、たいていの人は薄情鈍感になるようだ。それはそれで良いのではないか、と思う。

 

意地悪くいえば、多情多感が行き過ぎると、その場その場の感情のおもむくままに流されて自分を失ってしまう状態にもなるわけで、コントロールのきかない気まぐれプッツン症にも通じる。歳をとってこれじゃ周囲に迷惑をかけるから、多情多感はやはり若さの特権であり青春の代名詞と言っておこう。

 

類似語として、多情多恨がある。これも物事に感じやすく恨んだり悲しんだり感情表出が豊かな人のこと。多情仏心はそういう中にも、薄情なことが出来ない仏心を持つ性質をいう。注意すべきは、“多情”の二文字だけの形容は男女関係で気が多い浮気な男、または女ということになって褒め言葉にはならない。

 

 

職権乱用


                                      四 字 熟 語


                                            職 権 乱 用 


上司が春に浮かれて部下の可愛い女性の体につい手をふれる、昔ならご愛嬌で済んだところ、現代女性は「セクハラだ」と声をあげる。もちろん相手が好意を抱く男性だったら見逃してくれようが、普段威張った憎たらしい上司なら、これはもう完全に吊し上げられてしまう。この程度でも職権乱用になる時代だ。

 

本来この言葉、公務員が職務上知り得た知識や情報を悪用して何か企む、または自らに任されている権限をみだりに利用して国民の権利を犯す、相手の不利益や弱みにつけこむ、こういう意味であるが、いつの間にか一般社会にも及び、権限を持った上位の者が下の者にそれを振りかざして何かを強要する、好き勝手なことをする、意のままに従えようとする、そんな場合によく使われるようになった。

 

セクハラの背景は男中心社会が崩れかかった証拠。男に言わせれば逆セクハラもあるとかで、これからいよいよセクハラ問題は喧々囂々の議論を呼び、世間の話題を賑わすだろう。さわらぬカミに祟りなしだ。

 

 

頑固一徹


                                  四 字 熟 語


                                       頑 固 一 徹 


頑固も一徹もそれぞれ熟語として通用するが、これを重ねればさらに強調され、他人の意見などには耳も貸さず自分の意見や考え方、やりかたをあくまで押し通すことを頑固一徹という。どちらかといえば、わからずや、ひとりよがり、非社交的、妥協も協調も許さない勝手者、扱いにくいエゴイスト、やや風変わり人、そんなイメージがダブって、このタイプはつきあいにくく敬遠されるのが現代の傾向である。

 

それだけにドラマや小説の主人公としては面白い。特にこういう老人は洋の東西を問わずヘンな人気を博するが、身近にいる者にとっては迷惑な話で、「ウチのおじいちゃんには困ったもんだ」ともてあまされ浮き上がるのがオチではなかろうか。

 

その証拠に、頑固一徹に輪をかけて救いがたいのが頑迷固陋で、これは頑固なだけでなく見識も視野もせまくて物事の正しい判断が出来ない意味だから、パロディにしてわざわざ頑迷古老とも書く。歳をとったら頭を柔軟にし順応性をもっと持ちたいものだが、そうはなれないものが人間らしい。

 

 

順風満帆


                                    四 字 熟 語


                                        順 風 満 帆 


満帆は本来マンパンと読むべきで、これをマンポと読むと試験ではバツ。しかしマンポでも構わないじゃないかという意見があって、会話では使われることもある。

順風満帆とは、船が追い風で帆を一杯に膨らませ軽快に走るさま、転じて物事が快調に進んでいることをいう。人生いつもこうあって欲しいが、大体そうは問屋が卸さないし、順風満帆でノリにノッてる有名人たちも思わぬ失敗で墓穴を掘る。

テレビのアラ探しが趣味の人のメモを見せて貰ったところ、満帆をマンポという評論家が結構居るそうだが、もっとトボけた間違いは、「これじゃドキが落ちる、ここらでイチヤをむくいんと……」と野球解説者が得意げにしゃべった。これはお察しの通り、「士気が落ちる」「一矢むくいる」のことだから、あまりの酷さに新聞に投書したとか。

相撲ファンを自称するキャスターは、心技体をココロギタイと読んだというウソのようなホントの話もある。人のフリ見て、我がフリ直そう!!!

 

 

八方美人


                                      四 字 熟 語


                                           八 方 美 人 


本来はどこから見ても申し分のない美人を意味するのだが、転じて、誰からも良く思われたい一心で誰に対しても調子よく如才なく振る舞う、そんな人を半ばからかって形容したのが八方美人である。八方美人でなぜ悪いんだ、なんて理屈はこの際おいて、これはむしろ悪い意味で使うのが通常だということを理解しておいた方がいい。「あいつは誰彼かまわず愛嬌をふりまき機嫌をとる八方美人野郎だ」なんて言われたら、軽蔑以外のなにものでもない。

 

ある結婚披露宴のスピーチで妙齢のご婦人がつい口走ってしまった。「新郎は本当に心の優しい方で、誰からも好かれ誰にももてる八方美人の殿方でございます」。本人は褒めたたえたつもり、列席の客は苦笑い。ご婦人の勘違いは笑い話で済ますとしても、新郎の立場は微妙ではないか。わざとトゲのあるスビーチをしたのではないか、と気をまわしたくもなる。

 

私に言わせれば、国だって全方位外交、等距離外交だ。これもいわば八方美人、単純に悪いと決めつけるわけにもいかない。